管理人のゲッツとの出会い、ファンっぷりを読みたい方はこちら
SPを集めたアルバムでゲッツ以外ほとんどソロを取っておらず、まさにゲッツのワンマンショー。バラード〜ミディアムテンポが主体となっており、流麗かつ繊細にして大胆なゲッツの歌心を堪能できる1枚。
ゲッツのいいところは、4,5といったアップテンポの曲でもメロディーが主役なところである。流れるように曲を表現し、細かいニュアンスまで気を配り、時にはダイナミックに跳躍する。技術的に高度なことをサラッとやってしまうのだ。
いつも思うのだが、ゲッツの演奏はメロディー〜ソロで音楽的に切れている点が見当たらない。そのためにこのアルバムの何曲かは一つの曲であるかのごとくである。技術的にうんぬんは練習すれば済むことだが、こういったことには「才能」という言葉が頭をよぎってしまう。
晩年の相棒(ゲッツは「私の心臓の半分」と紹介している)ケニーとのデュオでの演奏で、この世を去る3ヶ月前のアルバム。80年半ばゲッツの体は癌に侵されてしまい、このライブでは1曲吹くごとに苦しそうにしていたらしい。しかしそんな状態であるにも関わらず、微塵も衰えを感じさせない想像力とパワーで吹き貫いていく。
軽快な長調の曲ほど一聴して元気で明るいが、どこか頑張っている苦しさが聴こえてくる。バラードではそれが静かに語られ、切なさと同時にどこか清々しさすら感じられる。どのみち涙せずには居られない。
私的にはデュオ演奏の理想形であると思っている。ベースやドラムがいればもっと良い演奏になるかと(ちょっとだけ)思い描いてみても、2人の会話に入っていけるだけの想像力は、私にはない。
注)同メンバーでの録音である"Spring Is Here"(Concord)とカップリングされた"My Old Flame"(Concord)にも収録されている。
70年代のゲッツは、約20年続いたVerveとの契約も切れ、自身も不安定だったせいか、SteeplechaseやColumbiaに数枚しか吹き込んでいない。その頃の演奏は、"Captain Marvel"(Columbia)や"My Foolish Heart"(Label M)で聴くことが出来る。今までとは打って変わって激しい演奏(一言でこう言うのも気が引けるが)である。
そんなゲッツが80年代に入り、当時まだ若いレーベルのConcordと契約して吹き込んだのがこの作品。上記の2枚のCDと比べると非常にリラックスしており、「心機一転」という言葉が思い起こされる。
このタイトルナンバーでもある"The Dolphin"は、ゲッツの数多くの録音の中でも一番好きな演奏。これを初めて聴いたのは、とある夏の総武線内だが、思わず涙が溢れ、じっと目をつぶって聴いていたことを今でも覚えている。ゲッツのメロディーセンスの素晴らしさが、ドラマチックなコード進行と合わせて一層映えるのだ。ありきたりなフレーズなど、どこにあるのだろうか。ここにあるのは美しいメロディー、まさにゲッツイズムである。
Lou Levy(p)とは50年代に競演しており、このアルバムでは再会を果たしている。ソロやバッキングのちょっとしたところや、4.を聴いたのが注目するきっかけになったのだが、「きっとこの人、へん」と感じた。確信したのは56年のソロアルバム"Solo Scene"を聴いてであるが、少なくとも当時では斬新なセンスを持っていた一人と言えるだろう。白いことは白いが、コミカルな一面もあり、コードワークも「はっ」とさせるのが上手い。
70年代のゲッツサウンドを聴くにはもってこいな一枚。雑誌等でたまにテナー特集としてプレイヤーと代表作が紹介されるが、ゲッツの場合70年代が取り上げられることはまずない。批評家の方々も「リラックスしたい時はゲッツ」と思っていて、自然と70年代を外してしまうのかもしれない。さておき、ここでは「リラックスできないゲッツ」を聴くことが出来る。サウンドや喋り方の力強さは先の"Stan Getz Plays"とは明らかに違い、燃え方が分かりやすい。
1.は単調なコード進行(3つのコードの繰り返し)であるがソロは決して単調ではなく、歌の一山が長い。バックを務めるのも、言わずと知れた規格外のプレイヤーだ。常に周りの音を敏感に感じ取り、答えたり仕掛けたりしている。2.や6.では、「徐々に激しく」というような意思が分かりやすいかもしれない。
しかしゲッツの演奏はいつも、固有のサウンドと音楽的な組み立て方が上手いという点では共通している。時期によって音色や歌いまわしは変化しているが、この2つは根本的なことであるのかもしれない。
当時屈指の歌いまくりキング、ゲッツとオスカーの共演。ヴァーヴのプロデューサーであるノーマン・グランツは、JATP(Jazz AT Philharmonic)というオールスターセッションを主催したり、このアルバムのようなビッグネーム同士の共演アルバムを多数企画している。同年のライブ盤"Stan Getz and J.J.Johnson at the Opera House"もその一つで、このアルバムのリズム隊はオスカー・ピーターソン・トリオである。
この頃のゲッツのソロは、"Stan Getz Plays"の頃から続く8分音符が主体のスタイルであるが、ソフトなサウンドと暑苦しくないニュアンスによって非常に聴きやすい。またコード進行に対して素直なサウンドで、とことんメロディックにアプローチしている。またソロのメロディーも即興性にあふれ、コピーして譜面に書いてみても同じフレーズはあまり出てこない。このアルバムにおいては、強力なリズム隊との会話によってそれがさらに引き出され、いつにも増してアイディアが湧き出ている。
誰かがゲッツに「なぜオリジナル曲をほとんど書かないか?」とインタビューで質問したが、彼は「素晴らしい曲は無数にあり、いまさら作曲するまでもない」というようなことを答えていた。しかし、生粋のインプロヴァイザーであるゲッツにこんな質問は失礼というものだろう。彼は常に作曲し続けているし、書き残すよりも即興演奏に賭けるという、ジャズマンなのだから。
このリズム隊はオスカー・ピーターソンのドラムレス・トリオとして知られており、この編成はNat "King" Cole(vo,pf)のバンドを模したものと思われる。この3人は個々の能力も高い上に、レギュラーメンバーでもあることからくる一体感は素晴らしく、強烈にスウィングする。特にジャズファンでなくても聞いたことがある名前ばかりだろう。
ゲッツがVerveと契約する前、Roostというレーベルに多数吹き込んでいる(といってもSP盤で1曲3分程度だが)。これらの録音はいくつかのコンプリート盤としてまとめられているが、特におすすめしたいのがこの一枚。Autumun Leavesなど、こんなにも繊細で耽美なバラードを、当時の誰が演奏できただろうか?まして25歳にしてこの演奏技術とストーリー性は驚嘆に値する。
この盤で注目してほしいことの一つは、メロディーフェイク(略してフェイク、メロディーを即興で変化させて演奏すること)である。(ジャズをあまり知らない人でも、同じ曲でも演奏ごとに曲のメロディーの部分が違うことが分かるはず)
特に圧巻なのが、おなじみ「バードランドの子守唄」で、彼のイントロからメロディーまでのくだり、Aメロ、Bメロへのつなぎかた、Bメロ・・・と、あくまでも原曲を生かしながら新しいメロディーを生み出しているようである。またそれを当たり前のようにサラリと演奏してしまうのが最高にカッコイイのだ。
コルトレーン一筋だった私が、ゲッツに惚れ込んだのはこの作品が最初であり、私的にも思い入れが強い。